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  • 「43歳から始める女一人、アメリカ留学」 第9話(ライクス)- 2025.05.13(火) 09:00

「43歳から始める女一人、アメリカ留学」 第9話

ライクス

2025.05.13(火) 09:00

「43歳から始める女一人、アメリカ留学」
第九話・・・「一本の電話」の恐ろしさを痛感

 大学へ初めて行ったのは、渡米5日目だった。まだ大学から家まではバスで一本、順調にいけば20分くらいで着く距離なのだが、この日はルーミーに自動車で送ってもらうことにした。

 この日は、受け入れ担当教授に会うアポイントがあった。私ときたら、お世話になる方なのに、最初の挨拶から受け入れ決定までの間に、一度の電話さえもしていなかった。

 その理由はただ一つ。電話が恐かったのだ。語学力欠如のせいである。そもそも私は、まともに英語で電話をかけたことなどない。アメリカ旅行中に、シアターや宿の予約をするくらいが関の山だ。

 いやもっと正直にいおう。一つ、電話のおかげである大学先から、受け入れを断られたという失態を経験していた。

 その教授とメールでやりとりする段階では、「いいですよ、お待ちしています」と順調に話が進んでいた。少なくとも私は、順調だと受け取っていた。が、ある時、「あなたの要望に応えられるか、考えたいから、一度電話をかけてみて」と言われたのだ。非常にマズいことになった。

 想定問答集を英語で作ろう。それを読むつもりで電話をかけよう。そう決めて、準備に勤しんだ。気合いを入れて、朝の2時、ダイアルした。けれども−−。

 ペーパー朗読部分については、「ふん、ふん、それは大事なテーマですね」などと相づちを打って聞いてくれていた教授だったが、熱い朗読が終わると、あっさり言った。

「うちは、とても田舎にある大学だし、研究室は純粋な学問の場です。ジャーナリストを受け入れたことはないし、取材活動できるような環境ではない」

 いえ、プロフェッサー、私はあなたの本や論文を読み、ぜひあなたの元で研究をしたいと願っているのです。等々、必死の嘆願を試みた。けれども教授の答えは覆らず。

 おそらくその教授は、どうもこいつの英語力はあやしい、と感じ取っていたのだと、今思えば思う。というのも、最初のうちこそ東京在住のアメリカ人の友人による文章チェックを経てから、送っていたのだが、次第に、彼女のチェックにかかる1日、2日の時間がまどろこしくなった。で、つい自分の英語のまま、メールを送ったことが何度かあった。

 「ワタシが、あなたの大学を、行きたい理由が、以下の通りです」みたいな日本語のメールが来たとしよう。言いたいことの意味は、分かる。でも大概の人は、まともに相手をする気をなくすだろう。電話で断られた背景には、この、いい加減さの積み重ねがあったのだと、今は思う。

 しかしその状況下の私は、「一本の電話で、受け入れ先を失った」と感じた。そして思った。同じことを、繰り返してはならない、と。そのために、過不足ない内容のメール文案を熟考し、有料だが数時間でチェックをしてくれる別のアメリカ人を探した。ボクシングじゃないが、とにかく電話での接近戦に持ち込まれてはいけない、と必死だった。

 なんともレベルの低い話である。けれどもその甲斐あってというべきか、新しくお願いした教授とはメールだけでスムーズにやりとりが進み、受け入れを受諾してもらうに至った。

 前置きは長くなったが、とにかく、私のアメリカ滞在のカギを握る恩人である教授との、初体面という大イベントが、渡米5日目にしてやってきたのだった。

次回、またね。

フリーライター
長田美穂さん(ながた みほ、1967年 - 2015年10月19日 )
1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科を卒業後、新聞記者を経て99年よりフリーに。
『ヒット力』(日経BP社、2002年)のちに文庫 『売れる理由』(小学館文庫、2004年)
『問題少女』(PHP研究所、2006年)
『ガサコ伝説 ――「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社、2010年)共著[編集]
『アグネス・ラムのいた時代』(長友健二との共著、中央公論新社、2007年)翻訳[編集]
ケリー・ターナー『がんが自然に治る生き方』(プレジデント社、2014年)脚注[編集]

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